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闇の召喚の一件で六つの紋章の怪物たちが姿を消した後、アズヴァーンと妻のヨギは世界の中心の園を出て、東の地へ移り住んだ。
新しい住処すみかとなったその土地の名は、シャスタといった。
大きな川の畔に広がる平野で、温暖で稔みのり豊かな土地である。
アズヴァーンたちはこの土地を耕作し、家畜を飼い、申し分のない暮らしを築いた。
アズヴァーンとヨギはそこで四人の息子をもうけた。
息子たちはそれぞれ異なる精気エレメントを受けて生まれた。
すなわち、
長男のデッサロッサは土の精気を、
次男のアヴィネヴィウスは火の精気を、
三男のミストラートは水の精気を、
四男のヴォートは風の精気を、
宿していた。
アズヴァーンは光の精気の持ち主、ヨギは闇の精霊であるので、家族に六つの精気が揃ったわけだ。
といっても、アズヴァーンが崇拝する六つの紋章の怪物たちとはだいぶ違った。
息子たちの仲がとても悪かったのだ。
彼らは何かにつけて互いに因縁をつけては喧嘩ばかりしていた。
食事時には誰が余分に食べたと喧嘩になり。
水汲みに行かせれば、誰の汲んだ水が少ないと喧嘩になり。
麦を挽かせれば、誰が石臼を回す回数を誤魔化したと喧嘩になり。
羊の番をさせれば、誰が歌った歌が気に入らないと喧嘩になる。
息子たちの啀いがみ合いのそもそもの原因は、アズヴァーンその人にあった。
アズヴァーンは、六つの紋章の怪物の創った精気エレメントによって発生した唯一の人間である。
彼の子供時代には、親もきょうだいも、共に育つ仲間となるべき人間もいなかった。
父親が息子に与える影響がいかに大きいのかということを、彼は全く知らなかったのだ。
彼は四人の息子をそれぞれ愛していた。
しかし、彼のそれぞれに注ぐ愛情は不公平で、無頓着で、そして全く悪気がなかった。
彼と相性の良い土の息子と水の息子に振り向ける笑顔の数は、残りの息子二人に対するよりも遥かにずっと多かった。
頭が良くて気が強い火の息子のことは、四人の中でも一目置いていたので、ことさら優しく接した。
しかし風の息子のことは、まるでいないもののように扱いがちだった。
もちろんこの息子のことも愛していた。
しかし風というものは、それ自体では、光に何の力も及ぼすことができないせいかもしれない。
そのうえ、その陰気な性質が、闇に属するものを吹き寄せずにはいられないのだ。