◆◇六つの紋章をめぐる物語◇◆

創世記

7.光と闇の章 アズヴァーンと六つの紋章の顛末


5

怪物たちはヨギがアズヴァーンの隣りにいることに気づいていなかった。
彼らにはヨギがアズヴァーンの影のように見えていた。
ヨギは人間の女の姿と物に落ちる影の間を行き来する、闇の精霊だったのだ。
ヨギはアズヴァーンの影の振りをしながら、夫と一緒に召喚歌を歌った。

ヨギのよく通る歌声は、アズヴァーンのそれよりも死の世界のずっと深くへと響き渡り、そこで眠る闇の心を揺り醒ました。
眠りを妨げられて怒り狂った闇は、ヨギの歌声に噛みつき、それを伝ってこちらの世界へ滑り込んできた。
現われた闇は、世界中がびりびりと振動しそうに低く垂れ込める陰鬱な声で、六体の紋章の怪物たちに問うた。

《この儂わしを引っ張りだしたのは貴様らか? ああ、知っているぞ。いつもいつもこそこそと儂の躰からだを盗んでいく奴らだろう? 良い根性をしているのう! ついに儂を起こしおって! 褒美に願いを一つ叶えてやるぞ。何なりと言ってみろ!》

意外や意外!
もしかしてこれは、光の子の定めを取り消してもらえるのではなかろうか?
紋章の怪物たちは恐れで縮み上がってしばらく呆然としていたが、気を取り直すと、おずおずと口を開いた。

「それでは、それでは……、お願いします! 私たちがここから離れられるようにしてください! この定めから自由にしてください!」

期待に声を震わせながら、紋章の怪物たちは言った。

《良かろう!》

全世界に闇の声が轟いた。
続いて、漆黒の闇が六体の紋章の怪物たちを取り囲み、ぐるぐると渦を巻き始めた。

「ああ……あああ……ああああ……あああああ…………!」

紋章の怪物たちの、絶望したような、振り絞るような叫び声が聞こえる。
しかしアズヴァーンも闇に包まれて何も見えず、何が起こったのかを知ることはできなかった。
あざけるような闇の嗤わらい声が雷鳴のように辺り一帯に轟いた。

《望みは叶えたぞ!》

そして闇が去ると、六体の紋章の怪物たちの姿は跡形もなく消え去っていた。