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怪物たちはヨギがアズヴァーンの隣りにいることに気づいていなかった。
彼らにはヨギがアズヴァーンの影のように見えていた。
ヨギは人間の女の姿と物に落ちる影の間を行き来する、闇の精霊だったのだ。
ヨギはアズヴァーンの影の振りをしながら、夫と一緒に召喚歌を歌った。
ヨギのよく通る歌声は、アズヴァーンのそれよりも死の世界のずっと深くへと響き渡り、そこで眠る闇の心を揺り醒ました。
眠りを妨げられて怒り狂った闇は、ヨギの歌声に噛みつき、それを伝ってこちらの世界へ滑り込んできた。
現われた闇は、世界中がびりびりと振動しそうに低く垂れ込める陰鬱な声で、六体の紋章の怪物たちに問うた。
《この儂わしを引っ張りだしたのは貴様らか? ああ、知っているぞ。いつもいつもこそこそと儂の躰からだを盗んでいく奴らだろう? 良い根性をしているのう! ついに儂を起こしおって! 褒美に願いを一つ叶えてやるぞ。何なりと言ってみろ!》
意外や意外!
もしかしてこれは、光の子の定めを取り消してもらえるのではなかろうか?
紋章の怪物たちは恐れで縮み上がってしばらく呆然としていたが、気を取り直すと、おずおずと口を開いた。
「それでは、それでは……、お願いします! 私たちがここから離れられるようにしてください! この定めから自由にしてください!」
期待に声を震わせながら、紋章の怪物たちは言った。
《良かろう!》
全世界に闇の声が轟いた。
続いて、漆黒の闇が六体の紋章の怪物たちを取り囲み、ぐるぐると渦を巻き始めた。
「ああ……あああ……ああああ……あああああ…………!」
紋章の怪物たちの、絶望したような、振り絞るような叫び声が聞こえる。
しかしアズヴァーンも闇に包まれて何も見えず、何が起こったのかを知ることはできなかった。
嘲あざけるような闇の嗤わらい声が雷鳴のように辺り一帯に轟いた。
《望みは叶えたぞ!》
そして闇が去ると、六体の紋章の怪物たちの姿は跡形もなく消え去っていた。