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アズヴァーンは毎日遅い時間にくたくたに疲労しきって家に戻った。
疲労の原因は主に心労である。
彼は終始無口で不機嫌で、そうかと思うとちょっとしたことで苛々して、妻に当たり散らした。
彼の妻のヨギは、以前は穏やかで優しかった夫の豹変ぶりに戸惑い、涙を流しながら訴えた。
「アズヴァーン様、なぜ、出来ないことは出来ない、やりたくないことはやりたくないと、あの怪物たちに言ってやらないのですか? どうかそうしてください。そうすればきっともう苛いじめられなくなります」
アズヴァーンはカッとなって怒鳴った。
「この間抜け! すっとこどっこい! そんなことが言えるもんか! 私は偉大な六つの紋章様にお仕えすることが何よりの誇りなんだ! 女のお前には判らん!」
アズヴァーンは妻が作った晩御飯にろくに手を付けずに、さっさと寝床に横になった。
眠りにつくと早速魘うなされた。
誰かを相手に必死で弁解しているかのように、泣き出さんばかりの調子で譫言うわごとを呟いている。
この頃は毎晩こうだ。
ヨギはそんな彼の背中を心を痛めながら眺めているしかなかった。
こうして、ヨギは紋章の怪物たちに対する嫌悪と憎悪を募らせていった。
彼女は紋章の怪物たちの精気から生まれた人間ではなかった。
アズヴァーンの召喚によって生まれた、紋章の怪物の偽物を創ろうとした際の失敗作の一つだったのだ。
それで、アズヴァーンを夫というよりは創造主として敬い、紋章の怪物のことは何とも思っていなかった。
ある日、ヨギはアズヴァーンに言った。
「アズヴァーン様、今日は六つの紋章様のところへ私を一緒に連れていってくださいませんか? 私にあなたのお手伝いをさせてください」
アズヴァーンは妻の突然の申し出を少し不思議に思ったものの、特に断る理由もないので望み通り連れていった。
世界の中心の園の紋章の怪物の前に二人が現れると、怪物たちは口々に言った。
「待っていたぞ。全く人間は怠け者なんだからなあ、一日の半分を寝て過ごさなきゃ気が済まんとは。さあ、早く私たちの偽物の召喚に取りかかるんだ」