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風の息子は湖水で喉の渇きを癒すと、絶望して草原に身を横たえた。
峰の頂上から遠くを眺め渡した時、灰色の山の峰が四方八方どこまでも延々えんえんと続いているのが見えた。
そちらから吹いてくる風は恐ろしく乾燥していた。
両親がローグの森へ入ってシャスタへ向かった理由を、彼は納得した。
人間の足でここから抜け出せる道筋は、そこしかなかったのだ。
そこ以外は、岩がちの乾いた山の連なりが果てしなく続いているのだ。
ここはどん詰まりなのだ。
一番向かうべきではない方向へ来てしまった。
もう一度シャスタへ戻らなければ。
草の中に横たわっていつしか居眠りをしていた風の息子は、ふと風の気配が変わったのを感じ、身動みじろぎしないように気をつけながら静かに眼を開けた。
そして、あっと悲鳴を上げそうになった。
巨大な狼がすぐそばに座り、風の息子を遥かな高みからじっと見下ろしていたのだ。
それは飛んでもなく巨大な狼だった。
ローグの森の巨木と同じくらいあろうかというほどに。
それほどの大きさのものが殆ど気配を感じさせずにそばに来たことも驚きだが、それの全身に隈なく奇妙な文様が走り、大量の風の精気エレメントを放っていることにも、驚いた。
その文様は、精気の魔力によって描かれていた。
狼の長く豊かな毛の下の皮膚にそれが隠されているのを、風の息子は魔力の感受力によって察知した。
最初、父親から聞かされていた六つの紋章の怪物とはこいつのことだろうと、風の息子は思った。
だが、ちょっと待て……。
怪物狼はとても疲れているようだった。
それは魔法の文様によって大量の精気を発しているためで、怪物狼にとってはそれが酷く重荷なのだと、風の息子は感じ取った。
もしかしてこいつは、父が召喚した紋章の怪物の偽物なのではないだろうか。
すると、まるで風の息子の考えに同意するかのように、怪物狼は巨大な尻尾をばたばた振った(それによって辺りに旋風が巻き起こった)。
暫くそうして見つめ合っているうちに、怪物狼は自分をどこかへ連れて行きたがっているのではないかと、風の息子は思った。
すると、怪物狼はまたばたばたと尻尾を振った。