◆◇六つの紋章をめぐる物語◇◆

創世記

11.水の章 ミストラート、世界の果てへ行く


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海流は飛ぶような速さで流れ続ける。
そうしてどれほどの日数が経ったろう。
水の精気に囲まれていれば、飲み食いしなくてもある程度は元気でいられる水の息子も、だんだん疲労困憊してきた。
魚を捕まえるのに魔法を使うのすら、億劫になってきた。

行けども行けども海ばかりで、一向に陸地は見えなかった。
進めば進むほど、海底が深くなっていく……。

ここは世界の果てなのではないだろうか、と水の息子は思った。
両親からはそんなものがあるという話を聞かされたことはない。
が、彼は、この世界は鍔つば広帽子のような形をしていると想像していた。
陸地は帽子の真ん中辺りに集まっており、その周囲の大地は一段と低くなり、そこに水が溜まって海を形成しているのだと。
帽子の鍔が途切れた先は、どうなっているのだろう?
その先は奈落の底へと落ち込んでいるのだろうか?
奈落の底は死の世界なのだろうか?

向きを変えて父たちのいる陸地へ戻るべきだろうか?
戻れば火の息子に殺されるのが分かっているのに?
しかし、どっちにせよ、今の自分の健康状態では、戻る前に飢え死んでしまう可能性のほうがよっぽど高そうだ。
ここまで来るには海流に乗ってきたが、引き返すには、自分の魔力を使って海流に逆らって進まねばならない。

水の息子は、己おのれが新しい時間軸へ移行したことを悟った。
別の陸地へ漂着することも叶わず、父たちの住んでいる陸地へ戻ることもできずに飢え死ぬという、時間軸だ。

それで、先へ進み続けた。
逆らっても何にもならないので先へ進んだだけだ。