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三人の息子が家から去ると、アズヴァーンは鬱ふさぎがちになった。
農園の収穫も格段に悪くなった。
息子達の精気エレメントが欠けたために、植物や動物が活力を失って生育が悪くなったためだ。
妻のヨギと一人残った火の息子は、居なくなった者達のことは口にしないように気遣きづかい、静かに日々を送った。
ある晩、アズヴァーンは食事の後に食卓の椅子に座ったまま、うとうとと居眠りをしていた。
それから彼は目を覚まし、呟いた。
「なんてこった。人生がどっちから始まっても何も変わらないじゃないか」
「なんですって?」
暖炉の前で椅子に腰掛けて鍬くわの手入れをしていた火の息子は、父を振り返りもせずに問い返した。
アズヴァーンは呂律ろれつの回らない口調で、ぼそぼそと呟き続けた。
「儂わしにとっての起こったことは、お前にとっては起こっていないことで、お前にとっての過ぎたことを、儂は知りようもない。儂はこれから数えきれないほど寝起きし、その度に記憶は薄れていく。お前に言うべき時が来た時には、すっかり忘れちまってるだろう。早くも儂は、過ぎたことはどうでもいい気分になっておるわ。この家の暖炉は気持ちが良くていかん」
火の息子は、父は寝ぼけているのだと思った。
その頃のアズヴァーンは、ずいぶん年老いて耄碌もうろくしていた。
「そうですか。ところで明日、一緒に畑へ行って木の根っこを掘り起こす約束、忘れていないでしょうね?」
火の息子は、大して期待もせずに言った。
腰が曲がって非力になった父の力などは本当は当てにしていなかった。
アズヴァーンは眠そうに欠伸をしながら言った。
「どうやったら忘れることができる? まだ約束してもいないのに」