これはシャスタ神殿で発見された古書ヴノン記の現代語翻訳の全文である。
ヴノンが生きた第一神殿期300年頃、アヴィネヴィウスの地の北端、グリーナ大河の畔で暮らすアヴィネヴィア人は、常に戦火に怯えていた。水の種族ミストラート人がしばしば南下してアヴィネヴィウスの地へ侵入し、集落を襲撃していたためだ。これらのミストラート人の集団の多くは強奪を目的とする強盗団だったが、中には南部への勢力拡大を図る水の神殿から派遣された神殿兵パレドゥトスも含まれていた。
この頃のアヴィネヴィア人は、四つの精気エレメント火、水、風、土のいずれかの男女のランダムな混成で、グリーナ大河と海岸部付近に暮らす者達は、ほとんどが精気の弱い無魔力人ヴァレオスであった。
初期のアヴィネヴィア人は、ほぼ全てが先祖のアズヴァーンやアヴィネヴィウスと同様に強い精気エレメントを備えた魔力人プレヴァレオスであった。しかし、四つの精気エレメントの混成社会では、他の種族のように、一つの精気エレメントに対する信仰によって統制された神殿政治が発達することがなかった。このことが、アヴィネヴィア人が無魔力人化ヴァレオシンクしていった原因であった。
四つの精気エレメントがランダムに混在したアヴィネヴィア人は、一つの精気エレメントのみで構成された集団の攻撃に極めて弱体であった。アヴィネヴィア人が他種族の攻撃に対して取ることのできた唯一の有効な対抗策は、身を隠すことであった。精気エレメントを弱めることで、魔力人プレヴァレオス達の魔力の感知から逃れようとしたのだ。
同じ種類の精気エレメントの人間の男女から生まれる子供は、親よりも精気エレメントが弱くなりやすい傾向にある。アヴィネヴィア人達は早くからそれに気づき、そのために、同じ精気エレメントの者同士で婚姻をすることを厳しく定めていた。彼らは自ら精気エレメントを弱め、無魔力人ヴァレオスになることを選択したのである。
このような無魔力人ヴァレオスのみの集団の間にも、ごく稀に魔力人プレヴァレオスが発生することがある。ヴノンもそのような火の魔力人プレヴァレオスであったと思われる。