水の神殿での重罪人の処刑方法は、基本的に水責めと決まっていた。
水の精気エレメントを魂に持つ人々は、水没しても比較的長く生き長らえる。
もちろん、他の種族に比べてそうだというだけで、いずれは窒息して死ぬ。
水責めの期間は四十日と決まっていた。
水の種族と云いえどもこれは無魔力人ヴァレオスにとっては長すぎる日数であるが、その頃のミストラート人は魔力人プレヴァレオスのみしか存在していなかった。
その期間、罪人が魔法を使わないよう、処刑台に魔法を縛る魔法陣を組み、それを死刑執行人が見張るというのが定められた様式であった。
実に回りくどいやり方だが、これは神の采配を伺うためであった。
この期間内に死ななかったならば、神から罪を赦ゆるされたということになり、罪人は釈放されるのである。
ヴノンはその精気に敬意を払って火刑に処せられた。
四十日間火に焼かれ続けたが、彼は死ななかった。
水の種族が燃やす火は威力が充分ではなかったのだろう。
彼は刑柱の捕縛ほばくを解かれ、市外の荒野に放逐ほうちくされた。
彼の目は火に焼き尽くされて闇に閉ざされていたので、彼自身の精霊の導きを頼りにして荒野をさまよった。
精霊が導く先に、その者が待ち受けていた。
ヴノンの見えない目に、その者が光り輝いている姿がはっきりと見えた。
その者自身が発する強力な光の精気によってそうなっていた。
その全身には、魔法の文様が隈なく刻まれていた。
その者こそ神遣しんし――紋章を守る者、または、紋章の怪物と云われているものであると、ヴノンは即座に信じた。
光る者は、ヴノンを沼地へと導いた。
そこにとても大きな栗の木が生えていた。
その栗の老木にも、光る者と同じような魔法の文様が隈なく刻まれていた。
「この場所をよく覚えておくように。またここへ戻って来るために」
と、光る者は言った。
それから光る者は、栗の老木に刻まれた文様の一部をヴノンに与えた。
ヴノンがその文様を地面に描くと、それは紋章の扉となり、ヴノンはそれを通り抜けて彼が行く道へと進んだ。